院長挨拶

※令和5年10月6日更新

日本の精神科医療の最大の問題は、欧米に比して余りにも入院患者数が多いことであり、次に人権が守られていないこと。近年、暴力的に支配する医療機関は少なくなってきてはいるが、忘れた頃に患者に暴力を振るう精神病院が未だにマスコミを賑わす事実を忘れてはならない。

実は、この十数年強制入院、閉鎖病棟、身体拘束が増え、人権状況はむしろ惡化しているというのが、残念ながらこの国の精神科医療の現状なのである。

精神疾患を有する総患者数は419万人と増加の一途であり、2011年7月に精神疾患が5大疾病に加わってからは、常に断トツ1位を堅持している。その内、外来患者は増加傾向にあるが、入院患者は減少傾向にある。疾患別に見ると未だに統合失調症は最多ではあるが、近年は気分障害と高齢化による認知症の伸びが大きく、統合失調症の地位も危うい。

今後の日本の精神科医療に求められるものは、長期入院患者の地域移行へ向けての早期推進であり、国民の精神患者に対する「偏見・差別意識」を変えていく努力である。そして地域移行に向けた精神科病院自体の既存の枠を超えた地域住民への働きかけや、受け入れ促進の取り組みの実施の積み重ねが更に必要と思われる。例えば、病院近隣の住民が立ち寄れるカフェや花屋などの併設（就労支援を兼ねた）、病院の職員と患者の融合による協力体制の確立などにより、今迄の古い「隔離・閉鎖」体質の脱皮を図り、地域に開かれた病院として生まれ変わる必要が不可欠である。

医療スタッフも、病院から外に打って出て精神障害当事者及びその家族を支援して行く積極性が更に求められる。この様な動きを促進する仕掛けとしてACT（包括型地域包括支援プログラム）が実践され始めている。ACTは多職種（医師、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、臨床心理士など）のチームであり、利用者が希望する生活を実現可能にするサービスチームとしての価値は高い。

厳しい精神科病院の収益構造を見直すためには、受け皿になる施設へのインセンティブ設計や医療のみならず、生活支援や就労支援と一体化した報酬設計など、「精神病床の入院長期化を防ぐ仕組み作り」が求められる。精神科疾患においては、身体疾患に比して症状の正解や緩解が曖昧な面も多く、社会生活を送ることの難しさを伴うが、地域社会での包括医療が求められる今後の社会においては、家族を含めた当事者への医療の在り方を抜本的に変える時期が、遅ればせながら来ていると感じざるを得ないのである。

当院も、病客（患者）の社会復帰を積極的に推進・実施する理念を3年前に掲げて、社会に貢献し、社会から信頼されるという強い意識で日々努力をしているところであり、新病院設立を目前に控え、新しい精神医療の模範を示す医療機関としての誇りを胸に、未知なる精神医療の探検と征服を目指して行く気概であり、見守って欲しいと切にお願いする。

医療法人社団重仁会佐々木病院
理事長・院長　青木　伸弘